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歯科治療 [医療]

 子供のころから虫歯で苦労した。
痛くて、よく夜中に母親に「今治水」をつけた綿を詰めてもらった。
小学校3年生くらいのときに、歯医者で一度に4本抜かれたこともある。しばらくして麻酔が切れ、痛くて枕に突っ伏して泣いた。当時の歯科医はずいぶん乱暴な治療をしていたと思う。怒った祖父が歯医者に文句の電話を入れた。
「子供とはいえ、いっぺんに4本も抜くやつがあるか」

 すでに五十を過ぎたいまでも、歯の治療で苦労している。
この年令になったからこそ、長年蓄積した不摂生が顔を出したにすぎないのだが。
仕事に熱中した20〜30代ごろは歯に無頓着で、思い起こせば、歯磨きなどはずいぶんいい加減にやっていた。たぶん2分もかけていなかっただろう。そのころから奥歯に虫歯ができはじめ、歯科医に行くと削られて、金属のインレー(詰め物)や、「アマルガム」などという銀色のアルミ材のようなものを詰められた。(このアマルガムには水銀が混ぜられていたことを後に知る)

 40代半ばでとうとう左下の臼歯を抜歯し、インプラントを入れることになった。ほとんど外科手術のようなインプラントは苦手な歯科治療でのクライマックスだった。寿命が縮んだが、口腔外科を得意とするM医師は直径7mmのボルトを私の顎に埋め込んでくれ、満足げだった。

 それからしばらくは歯磨きを用心深く行うようになったが、もともと徹夜仕事が多く、不規則な勤務形態だったせいもあり、歯のケアがおろそかになることが多かった。間食もし、昼に歯を磨く習慣はない。そのうちに右下の奥歯が痛みはじめ、HF歯科に通ったが、ここでは治療ミスや未完成なCADCAM機器「セレック」による治療など、ひどい目に遭う。

 三鷹に住んでから現在まで7つの歯科に通った。ひとつの地域でこれだけ変えるのは尋常ではない。しかし、それには理由がある。前述のHF歯科は論外として、K歯科はプラスチックを多用し、薬剤によるていねいな治療はいいのだが、いかんせんプラスチックで埋めた個所に後年虫歯が再発しやすい。それで小臼歯が一本がほぼだめになってしまった。H歯科は腕のいい医師との評判で行ったが、担当したのは二番手の医師で少々経験不足。次のF歯科も同様で三番手。若い医師は細かい施術ができるかもしれないが、要するに削って詰めるだけで、どこか淡白だ。自分がやりやすい個所を選んでいる。「お口の中の環境をトータルに見る」というが、実際には全体をよく見ていない。

 軽度の虫歯ならば、いまならどこの歯科でも大差ない治療を行ってくれるだろう。問題は、神経に近づく深い虫歯や神経治療にまで達した歯の場合だ。本当は虫歯の進行をなるべく遅らせる治療をよしとすべきなのだろう。20代前半に通った国分寺の歯科医が治療した3本の奥歯は25年以上長持ちした。医師による手技の差は実は歴然とあるような気がしてならない。金属インレーでフタをしても、結局虫歯は内部で静かに進行していく。気づいたときには深く傷んでいることが多い。その耐久期間が、歯科医の技術によって4年だったり、25年だったりする。いまでは信じられないが、本当に25年もつ治療もあったのだ。

 いろいろな歯科に通院して感じたことがある。最近の新しい医院は総じて院内が清潔だ。治療に使う器具も患者ごとにビニール袋に入れて管理し、治療台の横には治療時以外はなにも置かない。一方で、古い医院にはそれとまったく反対のところもある。雑然とちらかっており、治療代の横には常時、薬の瓶や器具、箱が置かれ、治療中の飛沫があってもおかまいなし。もっとも、清潔だから信頼できるとは限らない。2本ほど治療してみて、仕事の良し悪しが分かる。世間の評判はあまりあてにならない。ここで、歯科医の特徴を列記してみよう。

・治療計画や施術の説明がていねい。虫歯を見逃さない←○
・治療中のインターバール(うがい)をきちんと取る←○
・院内がきれい。看護師の応対や手際もいい←○
・クリーニングに力を入れ、歯周病のチェックもきちんとできる←○
・最初に治療計画を立て、あまり時間をおかずに虫歯を次々に治療していく(通院は1カ月に三、四回程度)←?
・時間をかけてじっくり治療する(通院は1カ月に一回程度)←?
・インプラントや口腔外科、顎関節症までカバーできる←○
・根管治療も時間をかけて行う←○
・かみ合わせを含め、口内環境のバランスをトータルに見る←○
・金属インレー優先←?
・プラスチック治療優先←?
・セレック(CADCAMによるセラミックインレー治療)などを積極的に勧める←×
・治療個所が長持ちする←○
・治療個所が長持ちしない(4年ほどで虫歯が再発)←×
・治療を終えても違和感が残る(「詰め物が当たる」「うずく」など)←×
・除菌液を勧める(研究の末開発されたうがい液、1本3000円以上を毎月)←×

 残念ながら、上記の「○」のいずれかにあてはまる歯科医はあっても、すべてをカバーしているところはない。医院によってやり方や得意分野がまちまちなので、一概に良し悪しが判断できないのが実際だ。保険診療による限界もあるだろう。「?」は疑問が残る。しかし、納得できない治療結果になった場合は医院を変えるべきだ。任せっきりはよくない。意外なのは、目視で明らかに虫歯であるにもかかわらずそれを治療しない歯科医。鈍痛を訴えてから治療を始める医師がいる。また、間を置かずして治療をどんどん進める医院も注意したい。インレーでフタをしてから痛みだしたら元も子もない。その逆に、1カ月に一度など、あまりのんびりしているのもいけない。のんびりしている間にほかの歯が傷み始める。初期ならまだいいが、根管治療や難しい処置になった場合の医者選びは慎重に。いままでの歯科医がそれらに対応できるのかを確認したほうがいい。

 本稿を読んでくれている20〜30代の方々に伝えたいのは、いま、歯を大切にしてほしいということだ。磨き方をマスターし、虫歯を作らないようにしたほうがいい。まだ間に合う。その時代におろそかにすると、40代後半になってガタが出始め(あるいはさらに高齢)、連鎖的に悪くなり、治療が長引く。加齢による歯質や神経の耐久性の低下などもあるだろう。虫歯になってしまったら、最終的にたどり着くのは抜歯だ。その先の選択肢は義歯、ブリッジ、インプラントの3つしかない。若いときはいいが、中高年になるとこれは切実な問題になる。

 歯科治療が身体の衰えやストレスと重なると、気分も沈む。金はかかる、時間は取られる、痛い、苦しい、よく噛めない、でいいことはなにもない。口内環境というのはとても微妙なバランスで成り立つ世界だ。そのバランスを崩さないように心がけるべきだ。喪ったら二度と戻らないし、悪くなると同時多発的に傷みだす。しかし一方で、五十年も使ったのだからガタが来て当然。あるいは、虫歯になったら結局進行は止められない。そのように現実を受け入れることも必要かという思いもある。私はいま、もがきとあきらめの狭間にいる。これはなかなかにしんどい。

 
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